ペルシア語学習ブログ

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点無しのヤーとアリフ・マクスーラ

Unicodeで同じ形のアラビア文字として、「ی」(ی、点無しのヤー)と、「ى」(ى、アリフ・マクスーラ)とがある。両者が同じ文字なのか違う文字なのかについてはいろいろと議論があるらしいが、一説によるとこれらは、「ي」(ي、点有りのヤー)を含めて同じ文字らしい。

三つの「ی」の由来

そもそも最初期(イスラム初期あるいはイスラム以前?)のアラビア文字には「点」は存在しなかったわけであり、上記に挙げた三種類の文字は、本来は同じ「ی」(←仮にیとしているが、ىでも良い)だったわけで、いずれも子音の[j](英語や日本語ローマ字風に言えば/y/)を表すアラム系文字に由来している*1

ヤーの「点有り」と「点無し」の違いは明らかに単なる流儀の違いであるし(さらに「点有り」の流儀でも時として点を書いてはならない場合があり、その場合は「点無しの「点有りのヤー」」とでも言うべきものになる)、アリフ・マクスーラは常に単語末に来るという特性上、本来は[-aj]という二重母音(または母音と半母音の結合)を表していたものが長母音[-ā]に音変化したということが容易に想像される。

このような「ヤー」の歴史、および「ヤー」が文字コード(特にユニコード)でどう扱われているかについては、以下の「ヤー、ハムザの問題」のページが非常に参考になる。

scratchpad.wikia.com

このページによると、「アリフ・マクスーラ」という単語は、そもそもは「ى」を「-ā」と発音する現象を指す言葉であって、文字の名前ではないらしい。「ى」は、文字としてはあくまで「ヤー」とのことである。

アラビア語における「ヤー」の点無し

上記のページによると、独立形、語末形の「ヤー」は、正則アラビア語においてもコーランでは点をつけないのが本来の姿らしい。

実際に調べてみると、例えば以下のサウジのキングサウード大学のサイトでは、語末形の「ヤー」が点無しで表示されている(スーラ2のアーヤ10、最初の単語「فِي」で語末形の「ヤー」が出てくる)。

quran.ksu.edu.sa

この「فِي」の「点無し」はフォントによるもので、この部分を別の場所にコピー&ペーストすると、文字としては「点有りのヤー」(ي)であることが分かる。また、コーランの文章の画像を検索した場合も、「点有り」のものと「点無し」のものを見つけることができる。

ペルシア語の「ی」と「ي」

ペルシア語では、「ヤー」(イランのペルシア語では「イェ」)の文字として、いわゆる「点無しのヤー」を使い、それは時としてアラビア語とペルシア語を見分ける特徴ともされる。パソコン等の文字入力システムとしても、少なくとも私が普段使っているものは、ペルシア語入力モードの「ヤー」はいわゆる「点無しのヤー」(ی)であり、アラビア語入力モードの「ヤー」はいわゆる「点有りのヤー」(ي)である。

しかしながら、上に挙げた「ヤー、ハムザの問題」のページによれば、アラビア語でも地域によって「点無しのヤー」が使われているという。また、ペルシア語の文章(ブログ等)でも「点有りのヤー」がしばしば使われている。

ペルシア語の「ي」

ところで、ペルシア語のブログ等で「点有りのヤー」を使っている例をしばしば見かけるが、これはどのような理由によるものだろうか? ユニコードが広まる以前の文字コードの歴史的経緯によるものか、それとも他に理由があるのか。。。

ペルシア語の「アリフ・マクスーラ」

ペルシア語の単語にも、アラビア語由来の単語にごく少数ながら「アリフ・マクスーラ」が存在する。例えば「علی」(アラー、~の上に)や「عیسی」(イーサー、イエス)などである。一方、「موسیقی」(ムーシーキー、音楽)は、元のアラビア語ではアリフ・マクスーラで「ムーシーカー」となるが、ペルシア語では普通に長母音の「-ī」で発音されるようである(「ムーシーカー」と発音したい場合は綴りも「موسیقا」になるようである)。

ペルシア語の文章でアリフ・マクスーラに出会う機会は極めて稀である。しかし、一方でペルシア語の中に短いアラビア語の文章が入ってくると、アリフ・マクスーラが非常に高頻度で出てくる気がする(例えばハーフェズの「متی ما تلق من تهوی دع الدنيا و اهملها」にはアリフ・マクスーラが2つもある)。

個人的に、アリフ・マクスーラは難関である。特に、それが出現しない場合において。ペルシア語詩の中に含まれているアラビア語のフレーズを読解しようとしたり、あるいは純粋にアラビア語詩を読もうとした場合、アラビア語は語形変化が多いので、私のほとんど皆無に近いアラビア語力では非常に苦労することになる。動詞などは規則動詞でもさんざん苦労するレベルだが、アリフ・マクスーラを含む動詞がアリフ・マクスーラを含まない変化形で現れたりすると、動詞の基本形に辿り着けたのがほとんど奇跡のように思えてしまう。さらに、wiktionaryで調ようとした場合などは、同綴り異音異義語が異常に多いし、どうにか目的の語に辿り着けても異常に多義であったりする。アラビア語はやはり難しい。。。

*1:アラビア文字のうち、「ب」と「ت」などは元々別の文字だったのが同形になってしまったもので、「ت」と「ث」などは類音を同じ文字で表記したものだが、「ی」についてはそのいずれでもない。